

親川バス停に掲げられた案内図には「涌井スキー場」の文字が。
旧豊田村に既出の「大平スキー場」とともにあった「涌井スキー場」。涌井は旧豊田村の西北端にある集落で、信越線古間駅から東に向かい荒瀬原の集落を過ぎて山間部に指しかかったところにあり、旧三水村(現飯綱町)や信濃町と境界を接する場所。「豊田村史」によれば1963年開設当初、ロープトウが1基設置されていたが、やがてトロイカにかわったようだ。
トロイカとは、今でも爺ヶ岳や山田温泉などファミリー向けのゲレンデに見られる、スキーを履いたまま大きな橇の上に乗るようなもの。古間駅からが一般的なアクセスだったようだが、長野方面からの交通アクセスが悪いこともあってしだいに客足は遠のき、わずか数年の営業後、1968年を最後に営業を休止した。
豊田飯山IC方面から上っていくと、まず、親川のバス停に掲げられている「斑尾高原観光案内図」に涌井スキー場が記されていることに心を強くする。何10年も前からかえられていない案内図なのだろう。さらに上ると涌井の集落。涌井は蕎麦がおいしいことでも知られていて、数軒のおいしい蕎麦屋がある。その一番上の一軒の前から、狭い道を少し上ったあたりからゲレンデが広がっていたらしい。
蕎麦屋のお爺さんが「そこにスキー場があった」と教えてくれた。リフトは設置されなかったようでもあるし、痕跡を見出すことはできなかったが。また、ゲレンデ付近と北永江・親川に学生村もあったとされている。風光明媚なゲレンデであったことは間違いないようで、ゲレンデの上には斑尾山が見えるし、振り返れば遠く志賀高原の山々を一望することができる。

(左)涌井スキー場があったと思われる一帯。(右)「冬の信州'80」を参考に作図。